Lmao
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30/10/2026
8:26
Đâu đó tại Nhật Bản
Tầng B3, Điểm-8173

空調の音が響く遺体安置所。その中に安置されたご遺体を1つ適当に選び、前に立つ。白い布で覆われている様子は、さながらお披露目直前のオークションの商品みたいだ。いや、どっちかと言えば屋台のくじ引きかな?

「早川秀一さん、33歳男性。収容違反に対する鎮圧作戦中に異常性に暴露した元Dクラスからの攻撃に被弾。即座に応急処置が施されたが間もなく死亡。死因は出血性ショック…と」

検案書に書かれた文章を噛み砕く。そしてゆっくりと目を閉じ、彼が死の間際に置かれていたであろう環境を空想する。

鳴り響くアラート、辺りで花火のように光る銃口と弾けるような発砲音。死の間際の彼に呼びかける他の隊員。ざっとこんな感じかな。うーん、あまりにも普通。まぁこの人もいつも通りっぽいなぁ。

「では…いただきます」

そっとご遺体の顔に被せられた布に手をかける。この瞬間が私は一番ワクワクする。これ以上に胸が躍ることは、この先の人生でも滅多にないだろう。そっと布をめくると、清拭とエンゼルメイクを済ませ綺麗になった顔が露わになる。私はそれを見つめながら手を合わせて、頭を下げ、冥福を祈る。同時にゆっくり、ゆっくりと空を咀嚼した。

こつん、と歯と歯がぶつかる音がする。無論、今の行動で何か噛んだわけじゃない。だが私の舌にある無数の味蕾は、確かにそれを感じていた。

「……甘い?」

想像と大きく異なる味に思わず顔を上げる。だが私の意識とは別に、口は好機を逃すまいとひたすら咀嚼を繰り返す。

こつ  こつ  こつ

歯と歯がぶつかる度に甘さが強くなる。果物や砂糖とは違い、延々と舌に纏わりついて離れない。そんな甘さが私の口の中にあふれ出してくる。なぜこんな味なのかはわからないが、予想とは裏腹に大当たりだったようだ。

「こういうことがあるからやめられないんだよなぁ、これ」

こつ  こつ  こつ  こつ

噛んで、噛んで、飲み込んで、また噛んで。滅多に味わえない至福のひと時を何度も何度も噛みしめる。あぁ美味しい。できることならずっとこうしていたい。

「四宮さん、いつまでそうしてるつもりですか?」

ハッとして振り返ると、朧さんが腕を組みながら冷めた目つきで私を眺めていた。

「お、朧さん…えっと、どのくらいやってました?」
「少なくとも、僕がここに来てから1分24秒が経過しています。もう十分ですよね?」
「え、えぇ、そうですね。もう出ます」

布を再び顔に被せ、書類を持って入り口へと向かう。

「ほどほどにしろと何度言えばわかるんですか?僕はあなたのおもりじゃないんですけど」
「はい、ごめんなさい…」

そう朧さんに謝って、くるりとご遺体の方へ向き直る。

「ありがとうございました」

頭を下げてお礼をする。これが私なりの彼への礼儀だ。

「それはそれとして、僕の部屋で今日のスケジュールを確認しましょう。食堂でテイクアウトしたので、朝食を食べながらどうです?」
「いいですね!じゃあ私、書類取ってきます!」

さすが朧さん、無愛想だが気が利く男だ。ご飯のセンスも信頼できる。さっきの大当たりについても話さないとだし、今日はいい日になりそうだ。


「はぁ~…紅茶が美味しい…」

なんでこの人普段コーヒーしか飲まないくせに紅茶のセンスもいいんだ。カフェイン取れれば何でもいいのか?…なんか腹立ってきた、今度水筒の中身エナドリにすり替えてやろ。

「で、今回はどうでした?面白いものはありましたか?」
「あ、そうそう!あのご遺体!今日すっごいのあったんですよ!」

朧さんの言葉に思わず声が大きくなる。二度と出会うことのないかもしれないほどの甘美な味わいは、未だ脳に焼きついて離れない。

「これまで味わったことのないような優しい甘さ!しつこ過ぎずくど過ぎず、そして舌にまとわりつく感覚…。少し苦味がありましたけど、それもまたプリンのカラメルみたいにアクセントになっていて〜」
「苦味がアクセント、ですか。初めて聞くケースですね」
「あの…毎度これメモってますけど、何か意味あるんですか?」
「個人的興味です。あなた以外に死を味で感じる人なんて知らないですから」

私は死者の顔を見ている間、その人の死を味として感じることができる。正確にいうなら、亡くなる直前に抱いていた感情を、だけど。これまでの経験から、穏やかで幸福ならば甘味、苦痛や恐怖ならば苦み、緊張や怒りならば辛味といった法則があることは何となくわかった。他にも細かい条件はありそうだが、文字通り死人に口なしなので、どれも仮説の域を出ない。

「まぁいても世に数人だと思いますよ?共感覚っぽくもありますけど、やっぱ異常性なんでしょうねぇ。面倒なんで言いませんけど」
「まぁ、業務に支障ないならいいんじゃないですか?支障がなければ」
「う…さっきのことは反省しますって。ただほら、いつもの癖で…ね?」

最初に気づいたのは中学生の時、ひき逃げで死んだ祖母の通夜でのことだった。棺の中を見た瞬間、口の中を刺すような痛みと筆舌に尽くしがたい苦味が埋め尽くし、堪らず嘔吐した。その次は家族に囲まれながら肺炎で死んだ祖父の葬儀。今度は甘みと苦味が半々くらいの味だった。その後も何度か死の味を感じてきた私の体は、気づけばその刺激の虜になっていた。そうして新たな味を求めて葬儀屋に就職し、紆余曲折あって今に至る。

財団で働き始めてから、味のレパートリーはもの凄く豊かになった。ここには、外よりも色々な死がある。私にとっては天職だ。まぁそれゆえ?今日みたいにちょーっとのめり込んじゃうこともあるけど、愛嬌ということでひとつ。そしてこれを上に知られると絶対に面倒なことになるし、最悪別部署に異動させられるのはわかっているので公にするつもりはない。

コンコン

部屋のドアが2度ノックされた。

「え、朝から朧さんに客?」
「僕を何だと思ってるんですか。どうぞ」

ドアを開け入って来たのは、喪服を着た黒髪赤目の女性だった。…いや誰?他のサイトの人なんだろうけど、朧さんの知り合いにこんな人いたの?

「突然すみません。四宮さんがこちらにいると伺いまして」

しかも用あるの私?

「四宮は私ですが…すみません、どちら様でしょうか」
「8148の斑座といいます。実は、1つお願いしたいことがありまして」
「は、はぁ…今日の合同葬儀についてのご依頼でしたら、責任者を紹介しますけど…」
「いえ、受付をされる貴方にお願いしたいんです」
「…?」

 
 

「…つまり、橋ヶ谷さんを虐めていた元同僚が来たら連絡してほしい、と」
「はい。彼らは橋ヶ谷君の人生を壊したんです。それでも彼の死を知ってここに来るような人がもしいるなら…一体どんな顔してくるんでしょうかね」
「……」

橋ヶ谷、橋ヶ谷…あー、あの犬っぽい見た目の人か。普通の味だったから忘れてた。

「今更許しを請いに来るのか、はたまた笑いにくるのか。なんであれ、ここに来るなら私はそいつと話をするつもりです」

斑座さんの目には、いつの間にか怒りの炎が燃えている。こういう人の「話」って物理を含むのがなぁ。

「ちなみに、話というのは?」

朧さんが紅茶を啜りながら尋ねる。

「どうして来たのか、それを聞きたいだけです」
「本当にそれだけで終わりますか?」
「……」
「相手が納得のいく答えを提示しなかったとしても、あなたは何もしないと言い切れますか?」
「…断言はできません」

正直な人だなぁ。え、このクッキー美味。あとで店の名前聞こ。

「そうですか。僕は止めも勧めもしません。四宮さん次第です」
「うーん…」

正直に言って、極めてどうでもいい。別に断ったところで、斑座さんは自分でリストの人が来ているかを探すだけだろうし。

…いや待てよ?ここで斑座さんに恩を売っておけば、彼女のサイトで死者が出た時に知り合いとして弔問に行ってもおかしくないんじゃないか?さらなる刺激を得るチャンスなのでは?

うーん……ありだな。

「わかりました、お受けします。ただし、私は連絡するだけです。引き止めたりはしません」
「ありがとうございます。今日は無理言ってこっちに来てるもので、途中会議に出ないといけないんです。その間の確認をお願いします。今日来る可能性のある人の名前と私の電話番号はここに。では」

多少表情が明るくなった斑座さんが部屋を出て行った。渡されたメモには8人の名前が書かれている。さすがに知ってる名前の人はいない。

「随分熱心な人でしたねぇ。よっぽど橋ヶ谷さんと仲が良かったんですかね」
「まぁ、そんなところでしょう。どのみち、仕事をするだけです」
「ですねぇ。ま、いつも通り自分の仕事をこなしましょう。あ、そうだ朧さん、あのクッキーってどこの店のですか?今度買いに行くんで場所教えてください!」


「受付、想像の倍は暇だなぁ」

依頼を受けたはいいものの、ひたすら座って受付をすることに変わりはない。受付やってる子に暇つぶしの方法でも教えてもらえばよかったな。あーあ、ちょっと席外して早川さんのとこ行っちゃダメかなぁ…あ、また1人来た。見ない顔だし、他のサイトの人かな?

「どうも」
「お疲れ様です。こちらにお名前をお願いいたします」
「あぁ…ほい、これで」
「ありがとうございます」

えーっと、林康介さん…ん?この名前って…。
太ももに乗せたメモをちらっと見る。…あった。本当に来た人いたよ。

「あら」
「俺の名前に、何か?」

まずい、声に出てた。とりあえず適当に言い訳しとこ。

「いえすみません。以前の職場に同姓同名の方がいたもので」
「あぁ…まぁ珍しい名前でもないし、そんな偶然もあるだろ」
「ですね。すみませんお引止めしてしまって」
「いやいや、こっちこそすまんね。じゃ」
「はい、どうぞお入りください」

セーフ。とりあえず、まず斑座さんに電話しないと。

『はい、斑座です』
「お疲れ様です四宮です。今大丈夫ですか?」
『大丈夫です。連絡をいただいたということは…」
「はい、お1人お見えになりました」
『…誰ですか?』
「林康介さんという方です」
『わかりました。すぐ向かいます』

会議は上の階でやってるだろうし、3分もあれば来るか。えーっと林さんは…やっぱ奥の橋ヶ谷さんのところか。確か何人か行ってた気がするけど、大丈夫かな。

「四宮さん、お疲れ様です」
「うわっ!?ま、斑座さん…」

振り返れば、少し肩で息をした斑座さんがいた。いや、1分くらいしか経ってないんですけど。

「すみません、驚かせるつもりはなかったのですが。で、彼は?」
「橋ヶ谷さんのところに向かいました。今は…棺の前で何かしてますね」
「わかりました。では私は彼に用があるのでこれで。お礼はいつか必ず」
「いいんですよそんな。ただ、騒ぎを起こさないでくださいね。周りに迷惑がかかるようなら、問答無用で会場から追い出しますから」
「わかっています。では」

凄い迫力だったなぁ。なんというかこう、絶対に逃さないという意志を感じた。エージェントって皆あんな感じなのかな。

「どうやら、本当に来たみたいですね」
「あ、朧さん」

火葬炉の準備が終わって物見遊山に来たのかな。

「えぇ、1人来ましたよ。あ、斑座さんが話しかけましたよ」
「ここからではさすがに聞こえませんね」

林さんも斑座さんも、とりあえずここで暴れ出すことはなさそう。あ、こっち来る。斑座さんが案内する形で、2人は一緒に上の階へ行った。どこかの会議室を予約してるのかな?依頼を引き受けた手前、どんな話をするのかちょっと気になる…。

「朧さん、ちょっと受付お願いしてもいいですか?」
「見物とは悪趣味ですね」
「朧さんにだけ言われたくないですー、すぐ戻りますんで、お願いしますね~」

えっと、とりあえずスマホで会議室の予約状況を確認しよう。斑座斑座…あった。107…ちょっと奥の方だ。殴り合いの喧嘩とかになってなければいいけど…。

「…けんな!」

ん、斑座さんの声がする。

「…彼に散々やってきた奴ら全員!彼に会う資格なんてない!なのに、謝りたいって?今更そんな虫のいいこと言うな!」

うわぁ、すんごい怒ってる。すりガラスだからよくは見えないけど、胸倉掴んでるよねこれ。うーん、さすがに止めとくかぁ。

「ちょちょちょ斑座さん!怒鳴り声が聞こえたと思ったら、暴力はダメですよ!林さんの首締まってますって!」
「ほら斑座さん、何があったか知らないけど深呼吸して、ね?」
「… 四宮さんすみません。取り乱しました」

よしよし、どうにか落ち着いたっぽい。後々問題になって、林さんのことを斑座さんに連絡したがバレたら面倒だから一安心だ。

「謝るなら私じゃなくて林さんに、ね?」
「……申し訳ありません」
「…いや、気にするな。あんたにとって、それほど大切な友人だったってことだ。それにあんたの言う通り、半端な気持ちで来るべきじゃなかったんだ」

林さんの感じ的に、謝りに来たっぽいなぁ。まぁ斑座さんの言うように今更感はすごいけど。

「それにあー、四宮さんもありがとうな、止めてくれて」
「い、いえいえ。私はたまたま通りかかっただけですから。ではこれで」

そういってそそくさと部屋を後にして受付に戻る。受付代理の朧さんは、お地蔵さんみたいにじっと座っていた。

「すいません戻りましたー」
「どうでした?平和的に終わりましたか?」
「一瞬危なかったですけど、多分大丈夫だと思います」
「そうですか。じゃあ出棺までの受付業務に戻ってくださいね」
「はいはい、わかってますよ」

えーっと、12時に棺を移動させて順次火葬の予定だから…あと3、40分くらいか。…もうさすがに誰も来ないでしょ。

「朧さん朧さん」
「なんですか?」
「暇なんで、しりとりでもやりません?」
「馬鹿言ってないで座ってください」

ちぇっ、ケチんぼ。

よし、出棺の時間!受付終わり~。次は、会場に残ってる人の追い出しだ。えーっと、残ってる人は…1人かな。あれ、あそこって…。

「早川さん当たりのところだ」

機動部隊員の服を着ているようだし、彼の部下かな。

「すみません、そろそろ出棺の時間なので、外でお待ちいただいてもよろしいですか?」
「あ、もうそんな時間…すみません」

20代前半くらいの男の子だ。確か開式からすぐに来てたはずだが、目は真っ赤だし鼻も啜っている。かなり慕っていたようだ。…もしかして、あの味の理由がわかるかも?そんな期待を持った私は、それ以上退室するようは言わず、彼の隣に座った。

「もしよければ、私に話してみませんか?」
「え?でももう時間なんじゃ…」
「それはそうですけど、葬式というのは、残された人たちが死を受け入れ、前に進むためのものだと私は思っています。誰か来ても私が説得しますから、ね?えっと…すみません、お名前を聞いてなかったですね」
「…宮田です」
「宮田さん、どうですか?誰かに話してみたら、気が楽になるかもしれませんよ」
「……そうですね。じゃあ、少しだけ聞いてもらってもいいですか?」
「もちろんです」

宮田さんは何度か息を整えたあと、早川さんのことを少しずつ話してくれた。

「早川さんには訓練生の時から目をかけてもらっていて、本配属の際に自分のところに来ないかって誘ってもらったんです」
「じゃあ財団でのお父さんみたいな人だったんですね」
「はい。自分は隊で一番年下だったので、特にかわいがってもらっていたと思います。勿論厳しいことも多かったですけど、本当に尊敬できる人でした。…でも、そんな早川さんは、僕が殺したも同然なんです」

お、ついに死んだ時の話かな?

「それは、どういう…」
「昨日の収容違反のことはどんな風に聞いていますか?」
「えっと、Dクラスがオブジェクトに寄生され脱走し、犠牲者が出たと。早川さんはDクラスの攻撃を受け亡くなったと書類にはありました」
「それ、僕を庇ったからなんです」
「……」

当時、宮田さんは早川さんと逃げ遅れた人の捜索をしていたらしい。宮田さんが怪我人を見つけ近づいたとき、死角からDクラスが襲い掛かった。早川さんはそれに気づき、宮田さんを庇い致命傷を受けた…というのが現場で起こったことのようだ。

「そのあとすぐ目標を制圧して、早川さんの救護をしました。でも出血が酷すぎて…手元の医療装備だけではどうにも…」
「それで、自分が殺したと…」
「……早川さんに怒られそうですけど、あのまま自分がやられてればって考えちゃうんです。本配属されて日の浅いペーペーと、何年も化け物と戦い続けてきた歴戦の戦士、どっちが損失が少ないかはハッキリしてるじゃないですか」

思うに、可愛がっていた後輩を守れた安心感と脱落する口惜しさ、それがあの味の理由なんだろう。だが私だけが知るあの強い甘みが、早川さんは本当に宮田さんを大事にしていたことを証明している。…さすがにそれを知らないままなのは可哀想だ。

「私はそうは思いません。早川さんはきっと安心したはずです」
「安心?」
「だって、自分が1番手塩にかけて育てた後輩を守れたんですから。それにその後、あなたがすぐ敵を制圧したことも、嬉しかったと思います。だって、あなたの成長を目の前で見られたんですから」
「……」
「だからどうか、少しずつでいいから前を向いてください。あなたの為にも、早川さんの為にも。すみません、ありきたりなことしか言えなくて」
「…いえ、ありがとうございます」

宮田さんの目には、また涙が浮かんでいた。まぁこのくらいのお節介はね、相当脚色したけど死人に口なしなので。そしてこの流れで違和感なく…。

「私も、早川さんに手を合わせてもいいですか?こうして、あなたを守り抜いた彼に敬意を表したいんです」
「もちろんです。きっと早川さんも喜んでくれます」

はい許可いただきましたー。じゃあさっそく失礼して…。
棺の中には、今朝見た顔が入っていた。手を合わせ、薄目で早川さんの顔を見ながら、再び空を噛んだ。あの素晴らしい味が口の中にあふれだす。あぁ、やっぱり美味しい。亡くなった時の様子を知ると、その味により深みが増したように感じる。

こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ

噛んで噛んで噛んで噛んで。この味を味わう最後の機会だ。忘れないように、何度でも思い出せるように、ただひたすらに空を噛む。

こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ こつ


あぁ、もったいないなぁ。こんなに美味しいものがもう食べられなくなるなんて。もっともっと、もっと味わっていたいなぁ…嫌だなぁ…。

「四宮さん、いつまで手を合わせてるつもりですか?」
「うわっ、お、朧さん…」

やばい、また怒られる。

「はいこれハンカチ。さっさと拭いてください」

拭くって何を…ってあれ、なんか涙出てる。やだやだみっともない。

「すみません宮田さん、お見苦しいところを…」
「いえそんな…」
「失礼。そろそろ出棺しますので、ご退室をお願いします」
「えぇ、すみません。失礼します。あ、四宮さん」
「どうかしました?」
「ありがとうございました」

そう言って、宮田さんは私に深々と頭を下げた。

「僕の話を聞いてくれて。そして、早川さんのために祈ってくれて」
「…いえ、当然のことをしただけです。あなたがこれから前に進めることを願ってます」

宮田さんはもう一度頭を下げて、会場を後にした。すいません宮田さん。なんかいい感じに受け取ってもらっちゃって。ちょっぴり罪悪感。

「それで、あなたは満足したんですか?」
「まぁ、結構満足できました。…もう一口だけいいですか?」
「ダメです。出棺の邪魔になります」
「はーい…」

朧さんに促され、しぶしぶその場を離れる。っと、いけないいけない。くるりと振り返り、今まさに蓋が閉じられた早川さんの棺へ頭を下げる。記憶に残る、素晴らしい味をありがとうございました。そんな感謝の念を込めて、最大限の感謝を口にする。

「ご馳走様でした」

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